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めまいに関する基礎知識

 ここでは、「めまい」とはどのような現象であるのかを理解するために、まず、あるいは「めまい」が起こっていることを感知して身体を立て直す仕組みを、自著を引用しながら、解剖生理学的に解説します。医師、リハビリテーションの専門家や看護師を養成する大学で使われているテキストレベルの内容です。

筋収縮と運動(姿勢・動作と骨格筋の働き)
  1. 姿勢
     ヒトの全身には約200の骨と約400の骨格筋があるといわれています。骨格筋は関節をまたいで腱で骨に付着し、収縮と弛緩によって関節運動を可能にしています。私たちが歩行や体操、手作業など四肢や躯(く)幹を動かしているとき、あるいは重い荷物をさげているとき、また、同一姿勢でリラックスしているときでさえ、多くの骨格筋が協働的に、あるいは拮抗的に働いています。
     一般に、姿勢postureには身体各部の位置関係を表す「構えposture」と、重力の方向に対する身体の位置を表す「体位body position」という、看護のケア技術に重要な2つの意味があります。ヒトの基本体位は立位standing position、坐位sitting position、臥位supine positionです。ヒトでは臥位は全身の筋緊張が最も少ない姿勢ですが、坐位や立位では特定部位の筋緊張がみられます。すなわち、立位では頭部から足関節までの体軸はやや前方に傾いており、重心が床に投影する点は足関節の約5cm前方です。このとき、頭部の位置を保持する胸鎖乳突筋と僧帽筋、脊柱を保持する広背筋など背部の伸筋群、腹直筋と腹部の屈筋群はそれぞれ収縮します。また、股関節の位置は大腿部の伸筋及び屈筋群の収縮によって、膝関節と足関節の位置は腓腹筋、ヒラメ筋、前頸骨筋の収縮によって、それぞれ保持されます。このように直立姿勢を保つ際に、重力に抗して収縮する筋(主に伸筋)を抗重力筋と呼びます。


  2. 動作と筋活動
     立位から他の姿勢への変化は、上述した筋群が合目的的に収縮・弛緩することで可能になります。たとえば、しゃがみ位crouching positionになる場合は、左右の大腿直筋が強く、大腿二頭筋が軽度にそれぞれ収縮し、背筋と腹直筋は弛緩する。また、しゃがみ位から立ち上がるときには大腿直筋と大腿二頭筋は同様に収縮し、立位となった時点で背筋と腹直筋が収縮します。[1]
     運動学では歩行動作は立脚相と遊脚相に分けられます。遊脚相では腸腰筋、大腿二頭筋、前頸骨筋が収縮して1脚が床から離れ、その着地時に脊柱起立筋、大腿直筋、大腿広筋群が収縮します。立脚相では腓腹筋、ヒラメ筋、大腿筋膜張筋、足の小指外転筋などが収縮する。両者を併せて歩行周期といいます。


  3. 姿勢調節機構  
     姿勢調節には脊髄、脳幹、小脳、大脳皮質などの中枢神経系が協働してかかわります。また、感覚入力として、前庭感覚系のほかに、視覚系、皮膚や筋紡錘などの体性感覚系が重要です。これらの神経系は生得的な種々の姿勢反射の構成要素として働くほか、学習によってループ回路を形成して姿勢調節にあずかると考えられます。姿勢反射のうち伸張反射、支持反射、持続性迷路反射、持続性頸反射は脊髄及び延髄が反射中枢です。また、迷路・頸部から起こる立ち直り反射は中脳が、視覚による立ち直り反射、踏み直り反射、飛び直り反射は大脳皮質が、それぞれ反射中枢として働きます

 文献 

[1]堀井たづ子、藤田淳子、吉野節子ほか:ヘローベスト装着時のしゃがみ立ち動作の表面筋電図による分析.京府医大居医短紀要5(2):29-34、1995

中枢神経系の形態と機能(脳幹)
  1. 姿勢反射
     上り坂では前のめり気味に、下り坂ではそり気味に歩き、乗り物が左右に傾くときは、傾いた方向の下肢が緊張します。あるいは、後ろから急に押されても、自ずと足が前に踏み出るので転倒することはまずありません。このように、私たちが日常生活で行っている動作が安全に遂行されるのは、大部分、脳幹を中枢とする姿勢反射postural reflexに負うところが大きいです。つまり、身体の空間的位置や、頭部、躯幹、四肢の身体各部の相互の位置関係は、前庭器官、頚部、網膜、皮膚などからの信号を受けて、脊髄や脳幹を中枢として起こるさまざまな姿勢反射の総合効果により、保たれているのです。  
     姿勢反射には、頚筋の受容器の刺激で起こる頚反射neck reflex、前庭器官の刺激で起こる迷路反射labyrinthine reflex(または前庭姿勢反射)、前庭器官、体性感覚器や網膜などの刺激で起こる種々の立ち直り反射、それに大脳皮質が関与するより複雑な反応である踏み直り反応placing reactionや跳び直り反応hopping reactionなどがあります。
     緊張性頚反射は除脳動物や両側迷路を破壊した動物で著明にみられますが、正常なヒトや動物では通常みられません。ただし、とっさの捕球動作などには見られることから、この反射は正常時でも姿勢調節に関係していると考えられます。上頚部の後根を切除または麻酔して緊張性頚反射を抑制しておくと、典型的な緊張性迷路反射がみられます。これらの反射の受容器の興奮は、四肢にそれぞれ逆の反射効果をもたらすことから、合目的的な姿勢保持において緊張性迷路反射と緊張性頚反射は相補的にはたらくと推測されます。
     以上のような姿勢反射は、大脳皮質や小脳からの統合と制御を受けながら脊髄の姿勢運動反射を統合し、合目的的で微細な姿勢の調節と保持を実現するものと考えられます。

感覚(感覚総論)
  1. 自己意識と身体感覚
     一般に自己意識self awarenessとは自分自身(の存在)を意識することをいいます。生理学では、自己意識は「自分の身体を意識すること」、すなわち身体認識を意味する。身体認識は身体像body scheme (body image) が成立することといわれます。身体像とは身体の全体か一部の像のことで、左右、前後、上下の三次元の方向をもち、かつ動的で、自分の身体の空間的位置関係を示しています。私たちが自分の身体を(自分自身のものとして)意識するのは、手や足など自分の身体の一部を見、それが思う通りに動き、体表に寒暖や湿度を感じ、自分が話す話声を聞くときです。つまり、ヒトは物理的な存在としての身体を認識することで自分自身を意識します。[1] 興味深いことに、人間の身体認識は、自分の姿を鏡に映して確認すること(視覚的自己像)によるのではなく(これは後天的に学習によって獲得する)、自分の姿勢や関節の位置を認知して形作られる三次元の身体像body scheme(またはbody image)によって生じます。つまり、自己認識の基本は体性感覚なのです。姿勢や身体各部の位置感覚の主な受容器は筋紡錘muscle spindleで、これに補助的に関節の受容器(角度や位置の感覚受容器)や腱紡錘(腱の伸張受容器)、そして視覚や聴覚、平衡感覚も働きます。身体像はまた、身体の前後、左右、上下の自分を中心とした空間を含めた認識によって成り立つので、移動や定位が可能になります。
     こうした感覚は通常は慣れによって意識にのぼることはありませんが、前庭器官の異常や筋疾患などによって空間認識機構が障害を受けた場合には、精神的ダメージが大きいことに留意する必要があります。[2] 上述したように、そうした障害は単に平衡感覚や運動機能が低下するだけでなく、身体感覚、すなわち、自己意識をも脅かします。例えばメニエール病など、平衡感覚障害のある患者には、単に転倒や障害物への衝突の危険性があるというだけでなく、文字通り「地に足がついていない」体験を強いられるわけです。自己認識の障害は自己同一性の障害にも繋がり、患者は常に不安と恐怖の中で生活することになります。また、脳梗塞などの後遺症で手足にしびれがある患者にも、同様の理由から心理的な支援が必要です。 サルの脳には体性感覚と視覚の両方に反応する、興味深い多感覚ニューロンが見つかっています。このニューロンは手からの触覚入力を受ける感覚野の周囲に視覚野を持っていますが、サルに熊手を持たせて餌を取る動作を繰り返し訓練すると、視覚受容野がサルの手の領域を超えて熊手の先まで広がるといいます。[3] つまり、サルの手の自己像は熊手まで拡大したということです。このようなニューロンは頭頂間溝の背側で2野と5野の境界付近にあり、身体像と身体認識の領域はここにあることが推測されています。四肢を失った人にとって、使い慣れた義足や義手は身体像(自己意識)を喚起させる可能性があるということです。こうした知識は障害者の心理的なケアにも役立つはずです。

 文献 

[1]岩村吉晃:7章.認識の基盤としての体性感覚.タッチ,医学書院,pp167-206,2001.
[2]深井喜代子:3.意識レベルと覚醒.Q&Aでよくわかる!看護技術の根拠本―エビデンス・ブック―,メヂカルフレンド社,pp18-22,2004.
[3]Iriki A, Tanaka M, Iwamura Y: Coding of modified body schema during tool use by macaque postcentral neurons. Neuroreport, 7: 2325-2330, 1996.

感覚(平衡感覚)
  1. 前庭器官の形態と機能
    A.前庭器官
     前庭器官は卵形嚢(utricle)と球形嚢(saccule)、半規管(semicircular canals)からなり、身体の平衡調節・運動調節をおこないます(図1)。

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    [ 図1 内耳前庭器官の断面図 ]
    松浦修四「平衡感覚,標準生理学」(本郷利憲他・編著)(医学書院)・貴邑冨久子編著「シンプル生理学」(南江堂)

    1)卵形嚢と球形嚢
     卵形嚢と球形嚢の受容器は平衡斑(macula staticae) で、重力の方向と対に水平面と垂直面に直角に位置しています(図2)。平衡斑には受容器細胞として有毛細胞があり、その感覚毛は炭酸カルシウム[耳石(otolith)または平衡石]を乗せたゼラチン様物質(耳石膜)の中に伸びています。

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    [ 図2 三半規管の立体的位置関係 ]
    伊藤文雄「生理学(図説)」(東西医学社)

    2)半規管の形態
     半規管には前、後、外側の3つがあり、互いに直交する3つの面上に位置します。膨大部稜(りょう)(crista ampulla)は各半規管基部の膨大部にある。膨大部稜は有毛細胞と支持細胞からなり、ゼラチン様の仕切りで覆われています。有毛細胞の基底部には内耳神経前庭神経部の求心神経線維がシナプスを形成しています。

    B.平衡感覚の受容と上行性伝導路
    1)前庭有毛細胞の働き
     前庭器官は共通の受容器(前庭有毛細胞)をもっています。この有毛細胞には求心性線維と遠心性線維のシナプス様式が大きく異なるI型とII型があります(図3)。両者に共通するのは、受容部に1本の長い運動毛(kinocilium)と、それより短い数十本の不動毛(stereocilia)をもつことです。図のように運動毛の方向にリンパが流れたとき有毛細胞が興奮して、半規管では角加速度を、球形嚢・卵形嚢では重力加速度をそれぞれ感知します。一方、運動毛とは逆方向のリンパ流では、有毛細胞は過分極して自発性発射も抑制されます。また、左右の三半規管は線対称に位置するので有毛配列の極性も逆となっています。その結果、頭部の回転刺激はより強調されて中枢へ伝達されます。前庭器官からの一次求心性線維(前庭神経)はその大半が前庭神経核(nucleus vestibularis)に終止します。

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    [ 図3 前庭有毛細胞の形態と興奮様式 ]
    深井喜代子他・編著「新・看護生理学テキスト」(南江堂 2008)

    2)平衡斑と頭位の関係
     平衡斑は頭の位置の変化や全身の動きにより刺激されます。頭部を動かすことにより重い耳石と平衡斑の位置関係にずれが生じて感覚毛が傾き、これが刺激となって求心性神経線維にインパルスが発生します(図4)。

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    [ 図4 耳石と頭位の関係 ]
    深井喜代子他・編著「新・看護生理学テキスト」(南江堂 2008)

    3)半規管と頭の回転
     頭部を回転させると、半規管のリンパは慣性により管壁の回転より遅れます。この遅れがリンパの流れをつくり、有毛細胞を刺激し興奮させます。前および後半規管と外側半規管が互いに直交するため、頭部の三次元運動の角加速度ベクトルが感知できます(図2)。

    C.前庭核の関与する神経回路
     高次中枢からの動作指令または身体のゆらぎにより頭位が変化すると、直線・重力加速や回転加速が加わり、耳石器や半規管が刺激され、それらの求心性信号が前庭神経核と小脳に送られます。前庭神経核からの出力は前庭動眼反射や緊張性迷路反射を引き起こすと同時に、高次中枢に伝達され、頭の位置や動きの感覚を生じます(図5)。

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    [ 図5 前庭系の平衡調整機構 ]
    深井喜代子他・編著「新・看護生理学テキスト」(南江堂 2008)

  2. 前庭機能の異常
     前庭機能の異常により身体の平衡保持が困難になります。眩暈(げんうん)(めまい)(dizziness,vertigo)では回転運動、傾斜、沈下、上昇感覚の錯覚のため、自覚的には周囲がまわる感じ、外界が上下左右に移動する感じが起こります。船酔いや乗り物酔い(動揺病)(motion sickness)は、前庭への過度な刺激で引き起こされた前庭神経の強い活動が自律神経系の反応を誘発して、眩暈、悪心、発汗が生じます。[1]メニエール病(Meniere's disease)では回転性の錯覚が起こり身体の平衡感覚がつかめず、転倒や障害物への衝突なども生じます。[1]
     聾唖(ろうあ)(deafmutism)では内耳障害のために前庭機能も障害され、迷路感覚や迷路性反射に障害がみられます。[2]
     平衡感覚は自己意識とも関係することが分かってきました。前庭感覚器系の障害のある患者は身体像や自己認識が脅かされ、強い不安に陥るのです。

  3. 平衡感覚系のフィジカルイグザミネーション
    A.眼球運動
     眼球の律動的運動を眼球(がんきゅう)振盪(しんとう)(眼振)(nystagmus)といいます。前庭機能検査によって生理的眼振を起こさせ、病的眼振の有無を調べる。眼球運動の検査には、視運動性眼振、温度試験(caloric test)、眼振計による眼振の検討などがあります。温度試験では、患者の耳に冷水または温水を注入して生じる眼振を観察して異常を判断すします。正常な場合、冷水が注入された耳の反対側方向に、また温水が注入された耳と同側方向に向かう眼振を生じます。

    B.偏倚(へんき)現象の検査
     前庭脊髄反射のバランスを観察するために閉眼したとき、身体が左右どちらかに偏っているかを調べます。

    C.立ちなおり検査
     平衡機能障害では、その障害は視覚が代償します。開眼と閉眼で身体の動揺の程度を比較して障害の有無を調べます。
 文献 

[1]海野徳二,小松浩子:耳鼻咽喉疾患患者の看護 (成人看護学13),第8版,99頁,医学書院,東京,1997.
[2]松裏修四:平衡感覚.標準生理学,第4版(本郷利憲,廣重 力,豊田順一ほか編),219-224頁, 医学書院.東京,1996.

自己意識−身体像と体性感覚

 自分自身を意識することを自己意識self awarenessと言いますが、生理学的にはこれは自分の身体を意識することを意味します。自己意識には自分の容姿や性格、癖など心理的な要素も関係しますが、これらは過分に哲学的な意味を含み論理的な解釈は困難です。そこで、ここでは生理学的な意味における自己意識について言及することにします。

 私たちが自分自身の身体を意識するのは、手や足など自分の身体の一部を見、触れ、自分で自分の話声を聴き、暑さや寒さを肌に感じ、また、生活の中でさまざまな動作をするときです。つまり、人間は物理的な存在としての身体を認識することで自分自身を意識しています[1]。興味深いことに、人間の身体認識は、自分の姿を鏡に映して確認すること(視覚的自己像)によるのではなく(これは後天的に学習によって獲得する)、自分の姿勢や関節の位置を認知して形作られる三次元の身体像body scheme(またはbody image)によって生じるといいます。つまり、自己認識の基本は体性感覚なのです。姿勢や位置の感覚の主な受容器は筋紡錘*で、これに補助的に関節の受容器(角度や位置の感覚受容器)や腱紡錘(腱の伸張受容器)、そして視覚や聴覚、平衡感覚も働きます。身体像はまた、身体の前後、左右、上下の自分を中心とした空間を含めた認識によって成り立ちます。これによって移動や定位が可能になるわけです。

 こうした感覚は通常は慣れによって意識にのぼることはありませんが、これらの空間認識機構が障害を受けた場合の精神的ダメージについて、私たちは注意しておく必要があります。例えばメニエール病などの平衡感覚障害のある患者さんには、単に転倒や障害物への衝突の危険性があるというだけでなく、身体像の認識障害が起こることによって「自己認識や自己意識が脅かされる」という強い不安があります。また、脳梗塞の後遺症で手足にしびれがある患者さんなどにも、同様の理由から心理的なサポートが必要です。これまであまり留意されてこなかったかもしれませんが、視覚や聴覚に限らず、身体像の形成に係わるその他の感覚器が障害された患者さんの精神的ケアは非常に重要なのです。

 文献 

[1]岩村吉晃:7章 認識の基盤としての体性感覚.タッチ,医学書院,東京,pp167-206,2001.


研究代表者:深井喜代子(岡山大学大学院保健学研究科)
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